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| No.1851 ノヴィック物語・第10回 |
| 投稿者： 志郎 | 11 Apr 2014 21:11:26 |
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第10回 海岸防御工事に関与している間に、私は私たちの倉庫に格納されていた、大砲弾薬というまったき貴重品に関して、砲兵指揮官たる人がこれを知らずにいるという驚くべき事実を確かめることができた。 海砲兵大佐ミューラー氏が掘り出し物をした。この掘り出し物については、実際わが倉庫に何を貯蔵していたか少しも知らなかったピエリー将軍が、あたかも某民族が清水を発見するために使用する魔法の杖のようなもののおかげで、古い支那倉庫の中から非常に良好な状態にある大量の砲弾を、多数の大砲と共に引きだすことができたなどと聞いたので、私たちはひとしおの快感を与えられた。 将軍は支那から旅順を租借した当時、ここにいなかったので、今までかかる蓄えのあることなど知らなかった言い訳に、こんなことを言っていても済むかもしれないが、どれほどものを知らないと言っても、次に述べるような余りのおめでたさは、どうして許すことができるだろうか。 大佐の活動は、日々何か新しい驚きの種を供給した。日の出とともに彼は、要塞に居なければ船上に現れた。さもなければどこかの工場に姿を見せる。夕べとなれば、いつも嗜む楽器を奏でて音楽者と化し、その繁劇なる勤務の余暇に、風流韻事の閑日月を楽しむのである。 （ドレツェウイキーは Drzewiecki で、艇名ではなく開発者であるポーランド人の名前をとった型式名。現在の発音だと「（ド）ゼヴィエスキー」と聞こえる。タイプの異なるものが3隻建造されており、極東に配備された艇の名は「Keta（鮭の意）」とされ、1878年の露土戦争中に開発された排水量2.5トンの小潜水艇である。魚雷または機雷2個を携行できた。機関は電動モーターで速力は2ないし3ノット、乗員は4名とされる） この出来事の結果、総督は何に限らず、自今この種の危険な作業を行うことを禁止した。しかしその理由は、かかる有為な士官を失うことを憂いてでは毛頭ない。異才彼に期待して当然である諸々のことを、われわれが未だ示与されない前に、知らず知らずに損なわれた彼の健康が、彼をして旅順を去らなければならなくなったのだ。これは一大不幸と言わなければならない。 火船の最初の来襲に備えようとして、駆逐艦、海岸砲台の外に、砲艦および不幸にして水道の入口近くに擱座したレトウィザンが港外にあって哨戒の勤務に服した。もし私の記憶に間違いがなければ、港口閉塞の第1回企画は、2月23〜24日の夜に行われたのである。何人もこんなことがあるとは予期した者がなく、市街も工廠も錨地も、皆一様に月無き夜半の常闇に覆われて、内部の灯火はみな遮光器、灯蓋に姿を隠し、一灯の燃ゆるなく隙漏の光の影もない。それゆえ日本軍は自ら道しるべにするものがない。当直の者の外は海も陸も、人みな深く眠っている。港外哨戒の勤務にあるレトウィザンの艦上にある哨兵の鋭き眼は、日本駆逐艦、水雷艇が来るかと、絶えず波上の闇に注がれた。 |
| URL: http://www.d3.dion.ne.jp/~ironclad/index.htm |
| No.1850 ノヴィック物語・第9回 |
| 投稿者： 志郎 | 09 Apr 2014 23:29:59 |
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第9回 とにかくいよいよ大砲が砲架に、砲架が砲座に座った時、この工事監督の位置にあった者で、海岸防御線全体の人々から、引っ張りだこになっていた唯一の工兵士官は、われらの苦心結果を検閲するために臨場し、些細な一カ所を除き、万事完全であると称揚していった。その一カ所とは、1門の砲が全射角を使用するのに差支えがあったため、ちょっと位置を動かさなくてはならなかったのである。 この仕事はわれわれが今まで過ごした神経衰弱に陥りやすい生活状態に、喜ぶべき変化を与えた。そのくせ、この生活状態には、われわれの思いよらないことのみ打ち続いたのであるが、兵員はわれらと同様、陸上の仕事に就くのを喜んでいるように見受けられた。 これと同時にわれわれは、ノヴィックが不意に出航の命令を受けた時に、現場と本艦とを隔てる3マイルの道を、よく駆け足で急いだものだ。常時われわれはいつもそれを笑って済ませていたが、今考えてみると、海陸官憲ともに、むしろ我々の好意を濫用したらしかった。その証拠には、何かというと理由もなく信号を掲げて、「ノヴィックは蒸気を上げろ」という。誰か火船を発見し得るような気がするとすぐ、「ノヴィックは怪しい帆影に接近し報告せよ」とくる。それ水平線に煙が見えた、「ノヴィックは揚錨せよ」、昨夜長官の夢見が悪かった「ノヴィック出動せよ」である。 こうも頻繁に指呼されるので、ついに黄金山頭にノヴィック専用の信号檣が立てられるに至った。ゆえにその竿頭高く、ひとたびノヴィック指呼の旗旒が翻るのを見るや、陸上にある本艦の将卒は、取るものも取りあえず、慌てふためき、上陸場に駆け付けたものだ。ある朝私は入浴中、例の旗旒が揚がったので、やっとシャボンだけ拭き落して、軍服を引っ掛け、ボタンかけかけ駆け出したことがあった。 ただし水兵が、間然するところなき鍬兵であると証しはしなかったにしても、彼らが職掌外の仕事に非凡な熟練を示したことは、認めてやらなければならない。すなわち様々な重量物運搬がそれである。要塞の深く広い壕を横切って、6インチ砲を運ぶくらいは、彼らにとっては児戯に等しかった。あるとき相談に呼ばれた一工兵士官は、ややしばらく沈思した後、必要な計算をするまで待ってくれと申し出た。彼はその計算によらなければ、はたしてその作業が可能であるか否かを明確に答えられないと言うのである。 ところが大砲のそばで先ほどから返事を待っていた一海軍将校が、まあ何でもいいからやらせてみてくれたまえと言って、承帆長に命じて「シャス」を用意させ、それから半時間の後には、大砲は無事壕の反対側へ移された。種々の張力や破断力を、精密に計算した後でなくては、「シャス」の構成が思いもよらぬと考えた科学者は、これを見て非常に喜んだ。コメンコ大尉はこのことについて、その適材なるとともにまた精力家であることを明らかにした。雑木や草むらにしがみついて、辛うじて這い上がるような高く険しいところへ、口径8インチから9インチの大砲と砲架を、兵員を指揮して引き上げる問題の解決に要した如上の性能は、彼が完全に備えていたところである。 私はこれらの堡類のいくつかに行ってみて、とくに「鷲の巣山」というものに気をつけて観たが、どうやって日本人が強襲によってこれを奪取し得たのか、いまだ理解に苦しむところである。このため日本人が驚くほど多数の兵員を失ったことは事実だが、倒れる戦友の屍を乗り越え、踏み越え、これら峻嶮なる高地によじ登ろうとする目的に対する彼らの執念は、ほとんど人間以上であったに違いない。 |
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| No.1849 ノヴィック物語・第8回 |
| 投稿者： 志郎 | 07 Apr 2014 21:49:52 |
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第3章 マカロフ提督の着任を待つ艦隊……火船 2月9日以後、われわれは長く日本艦隊を見なかった。これはわが艦隊にとって沈滞沮喪の期間であって、駆逐艦が二、三度偵察に出たのと、魚雷を受けた艦の修理が立派に完成された外は、二週間にわたって一つも為すことがなかった。とは言うものの、我らはただ二つのドックしか持たない。そしてこれらは二つとも物の役には立たない。すなわち一方はなお建造の途上であり、もうひとつは小規模で巡洋艦を入れるのがやっとなのだ。確聞したところによるとアレクセーエフ大将はこれより先、太守の職権をもって、しばしば工廠の事業に使用すべき金を請求し、特にこのドックの完成のために繰り返し請うところであったが、在サンクト・ペテルブルグの当局はいつも、わが艦隊は実際新艦ばかりであるから何も必要はない、もし何か不時の出来事が戦艦のいずれかに起こったときは、日本に送ればよい。日本には大小各種のドックやベーシンがあり、十分役に立つではないかと言う論拠の下にこれを拒絶した。これはあるいは砂上の偶語であるかもしれないが、しかし要するにはなはだありそうなことで、われわれは海軍省屋上風見の矢から、この種の回答が飛び出すのを見ることがあるのだ。 ドックがないので、われわれは他に工夫を凝らさなければならなかった。その工夫と言うのはこの場合「コファダム」である。これはわれわれの創意ではない。それどころか旧式でやくざな代物で、もはや必要ないと考えられていたものである。このコファダムは、私の知る限り、これまでこんな大仕掛けで使用されたことは決してない。われわれは第一階において失敗した。（ラスプラタ55ページに詳細有） 最初のコファダムは、圧力の計算を誤ったのが原因で、水圧に耐えきれず、壊れてしまった。しかし技師はまったく失敗に屈せず、再びこれを計画して、今度はいささかの故障もなく、この事業を完成することに成功した。そしてあたかも彼らの欲するがままにドックを使用したほど迅速に、いや総体から言ってみれば、実に三倍の速度で、行われたことになる。 何人も陸上の設備は実際皆無であることを知らぬふりはできなかった。砲台も、土工も、そしてそこかしこに、計画のみ立派な数個の木杭が高地に立っているだけで、後日建設されるべき堡塁に関するわれわれの都合よい考えばかりを表示するのである。自分が認めた、真に活動した期間は二度あった。魚雷襲撃のあったすぐ後、敵の上陸が一般に予想された時、これがその一。しかし日本人がおもむろに兵力を鴨緑江に集注しはじめたことの次第が明らかになった時は、再び平静に帰して、「いや、あそこならまだなかなかに遠い、彼らは旅順に送るような余計なものは持っていない」などと人々は噂し合ったが、その後、突然警報が伝わって、再び活動を見るに至った。これがその二である。 これはまったく思いがけない時に起こったもので、われわれの陸上交通は突如として切断され、そのために太守はわれわれと共に閉塞されるところだった。そこで艦隊は海岸砲台を固める目的で、その大砲の若干を陸揚げし、防御の一部に加わって活動した。巡洋艦はこれに要する工作隊を供給した。ノヴィックも5門の12ポンド速射砲からなる一砲台の建設を割り付けられ、毎朝、乗組みの大尉一名、片舷の兵員を率いて工作に行く。かかる仕事に対して、その道の唯一の素養と言えば、兵学校時代に学んだ築城学の教程に関する、怪しげな記憶の外には何もない。哀れな海軍士官にとっては、この砲台建設も容易な業ではない。そして別に指導者がいるではなく、一人の相談相手すらいないのである。 |
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| No.1848 ノヴィック物語・第7回 |
| 投稿者： 志郎 | 05 Apr 2014 21:58:52 |
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第7回 ところで旅順沖の我が戦術であるが、終始まさにこの惰容に覆われていた。わが指揮官は実際、ただの一度も攻勢をとったことがない。彼らの唯一の目的は、できる限り永く、軍需、人員、とりわけ彼らの尊き髪膚を傷つけるような途に出まいとするところにあったと見える。しかして終局はいかに。すべてこれらの戒心こそ、まさしく正反対の結果に彼らを導達させたではないか。 われわれが全戦役を通じて固執した単縦陣というものは、各艦長の独断専行、勇気、個性を損なった。各艦長はむやみに艦橋にかじりついていて、命を奪う弾丸を待つがために、堅忍主義の実行とは下落したものだ。士官は一般教練における如く、単にその持ち場持ち場で働く機械になってしまった。突撃すなわち士気の鼓舞の如き、陸戦においては甚だ効果があるものも、近世の海戦にあっては、これを実行すべき余地がない。 また一方において、二隻の軍艦の間の決戦ならば、いずれの艦長でも自己の熟練を利用して、一層有利な位置を占めることができる。けれども過去あるいは時勢の間に、海戦の状態は変遷して、帆船時代のめざましい働きを繰り返すことは、ほとんど不可能になってしまった。万事運よき命中弾の数によって定まる。兵員の勇怯などは多く関する所ではない。 陸戦においては何人も、他を殺そうとする狂乱、人の能く行う一種の惨殺を、神経の興奮、目睫の間への敵の出現、さては敵のために羊の群れのように屠られないように自ら進んで刀を敵に加え、もって己が身命を全うしようと欲する、いわゆる自衛の本能に帰する。 「ノヴィック」の建造地であるドイツを解纜した当時、艦長ならびに士官たちは、私費をなげうって楽隊を組織したが、この楽隊が乗員を鼓舞したことには非常なものがあった。9日の戦闘が終わって、本艦が国歌を演奏しつつ入港した時は、歓呼の声が四方に起こって、陸岸砲台はその声が特に盛んだった。砲台からは戦闘の光景を一望の下に収めることができたのである。砲台側の言うところによると、本艦は他艦に比して特に敵に接近し、そのため一同は「ノヴィック」が魚雷を撃つつもりなのだろうと信じたくらいであったそうだ。そして砲台員中には「ノヴィック」の襲撃を受けて、1隻の日本軍艦が沈没するのを見たような事を言う者さえ出てきたが、無論これには、いくらか想像が手伝っている。 軍人ならぬわが楽長は、解雇して陸へ上げてやろうという申し出を鼻であしらい、艦に残り得んがため、指揮杖など捨ててライフルと交換してもらいたいなどと言っていた。同夜、「ノヴィック」は工廠に受け取られ、損害を受けた外板の幾枚かを取り換えることになった。工廠の十日十夜間断なしの狂熱的努力のおかげで、漏水の個所もことごとく修復されたため、本艦が再び港外に出現するのを見て、日本人は不快な驚きを感じたのである。彼らはすでに前週、本艦を撃沈したと充分に信じて、自ら決めてかかっていたからである。 |
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| No.1847 ノヴィック物語・第6回 |
| 投稿者： 志郎 | 03 Apr 2014 21:08:16 |
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第6回 私はもう一度言わなければならない。当日わが艦隊は勢力において劣弱だったけれども、地利においては優越していたことを。叱らば決して再び起こることのないこの機会を、逸失するに任せた人は誰であろうか。艦隊司令長官なのか、はたまた黄金山頭においてこの戦闘の指揮を執った、太守その人であるのか。 日本全艦隊は単縦陣形整斉としてわが前面を航過した。巡洋艦隊がしんがりを固め、常にその戦艦隊の通跡を追って、わが海陸砲火の有効射角内を横切り、一艦も欠けることなく、粛々として航過し去ったのである。いやしくも海軍将校にして、戦争の何ものなるかに関し、いささかの概念を有する人ならば、否、単に少しでも気力のある人ならば、この列の殿尾に殺到して、これをその主隊より遮断するに躊躇する者はない。こうすればその主隊は回頭還帰せざるを得なかっただろう。 各員がこの挙を待望しつつあった時に信号は掲げられた。いわく「駆逐隊は敵を襲撃せよ」と。われわれの有する小駆逐隊が、真昼間に損害を受けることなくして、魚雷の有効射距離内に達することが絶対不可能であることを思わば、この信号はただひとつの愚に過ぎなかったのである。この信号は、いくらか躊躇の模様があった後、駆逐隊の未だ行進を始めもしない前に取り消されてしまって、いたずらに当日わが指揮者がすべての判断力を失ったことの証拠を提供するだけになってしまった。ただ予期された通り、日本艦隊はわれわれに関わりあっても、これ以上何も得るところもないのに自ら満足して、しずしずと退却していってしまった。彼らは損害を被ったその数艦が、本国に向かわなければならなかったから、ある期間は再現するのを好まなかった。 今日、私がなお信じていることは、もし守勢的防御に執着する代わりに、少しでも冒険進取の精神を発揮したら、最後に風向きはことごとく順転して、我らの利益になったかもしれないということである。実際戦闘に参加している人にとっては、その感想を分析することのすこぶる難しいのみならず、これを記憶に残していくのはさらに困難である。 とにかく百感脳裏に走り来りて、ことごとくこれを包容するべくもない。下層弾孔より突然海水の奔入し来るを防ぐための手段を求めて、専念これに従事中、一大砲弾の鈍い唸りをたてて頭上を過ぎる時には、我も忘れてゾッとする。またはすぐ傍から負傷者の呻き声が耳に入って、ハッとチリ毛立つ。疾駆する担架隊に突き飛ばされる。遠雷の如き敵の砲声も、耳を聾せんばかりの己が艦砲の響きに、一時はかき消される。 あまり重大ではない損害の応急処置や、わが砲火の効力を注視して、射距離を修整するなどのことは、充分冷静に行えるが、しかし死は近いとか、次は自分が手足所を異にする番だとかいう憂いの念、胸を塞ぎ、ある程度まで人の頭脳を乱すものである。かような状態でも、ともかくも時間は経過していく、ゆえにわが心裏に深く跡をとどめた物はただ、近世の戦争、特に海戦は、忌むべきものであるという確き信念あるのみである。どうして私は、わが感覚を打った事物に関しては、はなはだ漠然とした描写以上、何ものをか能く叙述し得ると言えるのか。 戦闘の運命は、いわば各員各個の肩上に懸るものではない。司令長官がこれをその手裏に掌握している。こう言ったからとて私は、射手の熟練、正鵠な射距離の測定、概括して言えば組織的な砲火指揮が、重大な要素を成すのを否定するものではない。ただその要素も、司令長官その人にして、強行襲撃を行なうことを躊躇し、いたずらに青蠅を追い払ってもいなくならないという程度の怠惰な容認をもって、敵の攻撃を防御するに汲々とするようであれば、まったく地に任せてしまうことになると言うのである。 |
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| No.1846 ノヴィック物語・第5回 |
| 投稿者： 志郎 | 01 Apr 2014 22:46:10 |
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第2章 1904年2月9日の戦闘 この日をもって対敵行動は立派に開始された。厳格に言えば、前夜の魚雷襲撃は、戦争行為ではなかった。せいぜい良く言ったところで、一つの偽計である。この偽計は戦争を避けえないようにしようとする目的から案出されたもので、その不正なことは論を待たないにしても、また極めて有要なるものであった。 英人は彼らにして日本人の立場に立ったならば、正しく同一行動に出たであろうと言ったのは事実だが、私の知る限り、英人は他の列強と接するにおいて、未だかつて士君子の風上に置かれたことがない。見たまえ、彼らはわれらが地中海において、日本がアルゼンチンより購入した巡洋艦、日進、春日を撃沈しなかったこと（もちろんこれは単に偶然のことではあったが）について、驚きの目をみはったではないか。 2月9日早朝スタルク提督は、夜来の事件を詳細に報告するため、太守を訪ねて陸上に赴いた。このとき日本巡洋艦隊が、夜襲の結果を調査しようとして水平線上に現れてきた。彼らは我が艦隊の猛烈な射撃を被って退却したが、その任務を遂行したという満足の感に加えるに、彼らが敢為したる企画のために、わが艦隊が数艦の欠損を生じたという確知を得て去っていった。 午前11時、「敵は大挙して旅順に向進しつつあり」との信号を翻しつつ、「バヤーン」が全速力で本艦の方へ進んできた。長官は辛うじてカッターに飛び乗り、第一次の戦闘に臨むため、我らに抜錨を命ずることができた。わが艦隊は、大軍艦3隻が、数時間前に深手を負ったにもかかわらず、また数において劣っていたけれども、敵に比しておおいに地利の優越を占めていた。それは敵が、わが海岸砲台の大部分が戦闘に参加し得るほどの、近距離に接近してきたからだ。われわれは、その自信、その戦おうとする熱情が依然として変わらない砲台の、わが背後にそびえるのを感じ、またそこへかけては、日本軍艦はいささかでも損害を被れば、本国とは万里懸隔のことであれば、海底の外には避難する場所とてないということを考えた。この精神的影響は非常なものであった。 敵はその砲火をわが艦隊と海正面の営造物とに分散しなければならず、したがって砲火の集中を行なえなかった。その後敵は、ある有利な射撃法を発見して盛んにこれを応用したが、しかしそれはずっと後のことであった。修正不良な敵の砲火はおおむね著しい近弾で、たまたまわれわれに到達した数発の砲弾も、たいした損害を与えなかった。 まったくのところ、ノヴィックは艦隊の一通報艦としての存在でしかない。しかし「駆逐艦の駆逐艦」としてはすこぶる好適な者である。と言うのは少なくとも日本駆逐艦の側の説であって、本艦はたちまちのうちに彼らを威嚇する鬼神となってしまった。この第一次の戦闘以来、ノヴィックは赫々の声名を馳せたのである。 |
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| No.1845 ノヴィック物語・第4回 |
| 投稿者： 志郎 | 30 Mar 2014 22:13:18 |
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こうしてわが艦隊は、先ほどの青年狩猟家と同様に、むしろ嫌悪を感じるほどしばしば、まだまだ十分余裕のあるようなことを吹聴されていたのであって、なおそれでも自己の経験に基づき、銃砲に装填していたのである。ゆえにまたも平和を保障する首都からの電報を読みつつあるわれらに、日本駆逐艦が数カイリのうちに肉薄し、艦首をこちらへ向けるや否や、直ちにわが艦隊に向かって突進してくることを想定せよと期待する人がいるならば、それこそ無理と言わなければならない。 実態はこうしたものだったのだ。してみるとわれわれが、日本駆逐隊を誤認して、哨戒に出た味方駆逐隊の帰投と考えたのは、まったくもって無理のないことではないだろうか。幸運な敵はこうして早くも、その目的の過半を達成したのである。わが最外列に位置した各艦は、真にもっともな自然の感情として、ちょっと躊躇の首をひねりはしたものの、直ちに砲火を発した。三ないし四縦列に錨泊していた（こうした陣列は、魚雷襲撃の怖れがある場合にはけっして採ってはならないものである）残りの艦隊は、誰に向かって、何を見て砲撃を始めたのかわからないままに騒ぎ出した。 私はその晩、ちょうど「深夜直」（０時から４時）の当直に立っていたので、第一の砲声を聞くと同時に、側らにいた鼓手を呼びつけ、戦闘配置の号令となるリズムを叩かせた。（ロシアにはなお、太鼓を打って戦闘配置の号令とする旧習が未だに存在している） 私が後日確認したところによると、スタルク提督は文書にして戦闘に必要な諸準備を整えさせ、かつ艦と艦が互いに遮蔽し合う、単に平時にのみ行われるべき複雑な碇泊法を変更する許可を得られるように乞うたけれども、太守はただ書類の余白に「早過ぎる」と書き入れただけで、その書類を返却したそうである。かくの如き重要書類を保留した参謀長は、一人この話の真偽を保証し得る人だ。 もし艦隊が海岸に並行して、単列に碇泊していたならば、魚雷襲撃などに多く苦しめられるはずもなかったのだ。6月23日〜24日の夜襲は、これを証明している。同夜は日没より日の出に至るまで、連続して敵駆逐隊の水雷を見舞われたが、われわれの陣形がよくその法に適っていたため、何度もの襲撃を見事に撃退してのけた。敵の頑強さは、彼らにしてより高い値を支払わせるに至ったのである。彼らの1隻たりとも、魚雷の有効射距離内に入り得た者はなかった。 2月8日から9日にかけての夜襲には、わが艦は1隻も撃沈されていない。貧弱な旅順の物資をもってしたにしては、魚雷を被って受けた損傷の修理も、驚くべき短時日のうちに終了した。 |
| URL: http://www.d3.dion.ne.jp/~ironclad/index.htm |
| No.1844 ノヴィック物語・第3回 |
| 投稿者： 志郎 | 28 Mar 2014 22:46:19 |
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第3回 これによっても2月8日夜8時以後は、わが艦隊の士官は総員在艦したことが明瞭であり、また長官はその自宅で、舞踏に人を招くなどの考えの、毛頭なかったことが分明するわけである。なお言っておきたいのは、当時未だ敵対行動の公に開始されていないにも関わらず、錨地の防御はますます堅固になり、見張りはさらに一層の厳密さを増し、一部の大砲はすでに弾丸を呑み、弾薬は手近に備えられ、また鼓手、ラッパ手は命令一下「戦闘配置につけ」の号音を伝えようと、これを当直将校の付近に居させたことである。 こう言うと、それではどうして日本駆逐艦は、発見されずに接近し得たのであろうか、それとも見つかるのが遅かったのであろうか、と、聞く人があるかもしれない。が、それは何でもない。まずわれらが森林の中で、一大巻狩りに参加していると思いたまえ、てんでに銃砲を手にした列の中には、猟についてのベテランとルーキーとが隣り合わせる。 古強者は落ち着いた調子で、勢子が前進を始めない限り、少しも焦るには及ばないと言って聞かせる。しかしやはり新米は、弾をこめたり、打ち金を起こしたりして、勢子が遠くて当の獲物は未だ動き出さないと、繰り返し言ってくれている指導者の言葉など、耳にもかけず聞き流し、依然として姿勢を変えぬので、ベテランはさらに、何でもいいから静かにしたまえ、まあ腰を据えて一服やるさ、何かの警報がなければ、獲物は君の前には現れない。前駆としてまず鹿やウサギのような走獣が来るだろうと、無造作に言い放った。 しかるにその言葉が終わらないうちに、突然イノシシ先生が、草を踏み、枝を鳴らして、疾風の如くに突進してくる。若い狩人は面喰い、狙いも定めず滅多打ちをしたが、すでに遅く、獲物はとっくに射程外へと脱出している。そこで若者は、青筋立てて向き直り、ベテランに食って掛かろうとするが、すでにベテランは如才なく逃げてしまっており、やがて友人相手にその話を煙に吹くのを聞く始末。 いや旅順でわれわれの上に起こったことはまさしくこれである。われわれは、戦争はいつ爆発するかわからない、適当の注意を払い、警戒に一層の厳しさを加えるべきと、繰り返し伝達されるべきであった。しかるに事実はこれに反し、戦争はない、万事平穏であるから、枕を高くして寝ていてよいと保証されていたのである。ゆえに艦隊司令長官を罰するのは不当である。 長官は所在の先任指揮官ではなく、責任はさらにそれ以上の人に問わなければならない。私は後任将官であっても、ある程度の独断専行を行なって差し支えないことを知っている。しかし誰にもそれを要求する権利はない。特に旅順には、陸海軍総指揮官たる太守があって、形勢切迫を艦隊に警告する地位にあったのは一人、この人のみである。その日もその日、2月8日夜の11時、総督府参謀長は、サンクト・ペテルブルグより到着した一通の電報を懐にして旗艦を訪れた。その電報は、談判は都合良く進捗しており、戦争の怖れはただの幻想に過ぎないということを保証している。 なんと言うべきか、最初の砲声が空を破ったのは、そのわずか一時間半の後でしかない。この電報を発した首都の人々は、自ら卑しく考えてしまい、当面の舞台にあって形勢に通暁する人々と打ち解けて協議することなく、ただ自分たちの勝手な思い込みで、談判を進捗させつつあったのだ。これではアレクセーエフ大将に責任を帰すべきいわれがない。実に責任は、さらに高位の者に問うべきである。けれども私は、もういい加減言い過ぎていることを知っている。この上こうした議論の筋を、深く言い立てることは、いささか吾輩の首に関わる怖れもある。 |
| URL: http://www.d3.dion.ne.jp/~ironclad/index.htm |
| No.1843 ノヴィック物語・第2回 |
| 投稿者： 志郎 | 26 Mar 2014 23:01:32 |
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第1章 1904年2月8日〜9日の夜における魚雷襲撃 思い出すたびに苦々しいのは、自分が旅順で、巡洋艦「ノヴィック」に勤務していた時代である。自分は未だに一種言い難き怨恨が、心肝を刺すのを覚えるのであるが、その怨恨の因由した事の、わが艦隊に対する、筆に上らせるのに忍びない悪罵こそ、千載の遺憾である。そして日本人のかくも易々と魚雷襲撃を遂行し得たのは、わが将校が、当時艦隊の司令長官たりしスタルク提督の邸で、宴饗舞踏のさなかであったからだということが、今日に至るまで、その誹謗的伝説の反響となって聞こえるのである。 自分をしていっそう怪訝の念に耐えさせないのは、かくも奇怪千万なる架空譚を一も二もなく軽信した世人が、すでにわれらがあらゆる新聞紙に寄せた反駁に対するばかりでなく、スタルク夫人のものされた抗議に接してさえ、懐疑的な冷笑をもって迎えた一事である。かくの如くにしてわれら当夜の処置は、今日に及んでもなお不評判の話題となっているのである。いやしくも心事公正なる人士にありては、舞踏の有無にかかわらず、事件は当然に同一結果に帰着したはずであることを諒解するのに、多くの考慮を要しないだろう。 まあ最初の発端から考えてみたまえ、そもそもの起こりとは陸上における長官の宴会である。海軍ならびに艦上生活なるものについて、ごく初歩の知識を有する人でさえあれば誰でも、上陸は一切副長が許すものであり、そして副長はそのつどこれを艦長に報告するものであること、また士官の半数は常に在艦しなければならず、艦長、副長は同時に上陸することを許されないという、不動の規則を承知しているはずだ。言うまでもなく、小艦艇である駆逐艦、水雷艇、砲艦などは除外例である。 軍艦においては常に一人の将校が、当直の勤務に服する。しかしもし人員があって可能であれば、たいてい二人がこの任務に就く。当直将校である者は、上陸してはならないというだけではなく、艦橋もしくは上甲板を離れることすら、みだりにしてはならない。食事も他人に交代してもらって、はじめて摂れるほどなのだから、就寝してはならないのはなおさらである。ゆえに当直将校がその持ち場にいなかったということを、仮にも真実のこととするなどは、私にとっては甚だ奇怪にしか思えない。この事を実現しようとするならば、すべての首席将校が知らないことと装ったと言うほかはない。 そればかりではなく、現に服務中の者以外に少なくとも二人の将校は常に艦内にいる、すなわち今しがた交代して艦橋を下った前直と、やがて交代のため甲板に上るべき次直将校の二名である。ゆえに何かの気まぐれで、もし艦長全部が極端なお人好しとなり、自ら目を閉じて知らぬ顔をしておられるような事があったにしても、士官総員が上陸することなどは、有り得ないことであるのが明白であろう。 また当直将校以外に、当直勤務に服する若干の兵員があって、この中には信号兵を含んでいる。信号兵は港内八方に目を配り、その現況を注視し、かつ沖合にも注意を払うのがその職分である。たとえ平時において、士官の大部分が舞踏に列席して、陸上にあるがごとき場合においても、その艦船の保安に任ずる十分な人員は、常に艦内に残留するのである。 私は自分の書簡を読み進めていくうちに、ふと目に留まったのは、2月5日付「ノヴィック」から出した自分の手紙である。その中には過ぐる数日前に、上陸しても夜の8時までには帰艦していなければならないという命令の出たことなどを、こぼして書いてある。そしてなお、こんなこともある……息せき切って上陸場に駆け付けた某艦の一士官が、自艦のカッターがたった今波止場を離れたばかりなのを、大声で呼び戻したことがあったのだが、運の悪い時は悪いもので、あいにくそれがすっかり長官の耳に入ったため、翌朝同艦の艦長は、命令遂行緩慢の廉をもって譴責を被ったうんぬん…… |
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| No.1842 期待しております |
| 投稿者： KDB | 25 Mar 2014 16:57:27 |
| 新刊書、楽しみにしております。モニター艦、海防艦、潜水巡洋艦？、軽巡洋戦艦？色々ありそうですね。 |
| No.1841 おめでとうございます |
| 投稿者： hush | 25 Mar 2014 12:52:03 |
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おおお、それは素晴らしい。 デカイ大砲を積んじゃいるけど、「戦艦」じゃない奴…ということは、あれも、これも、そして、あの艦も登場するということですね。 素晴らしい。 |
| URL: http://hush.gooside.com/ |
| No.1840 ご挨拶 |
| 投稿者： 志郎 | 24 Mar 2014 21:51:41 |
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私事でありますが、近々潮書房光人社より、NF文庫新刊として「巨砲艦」を上梓することになりました。順調に進めば４月下旬には書店に並ぶはずですので、よろしく中を覗いてみてください。デカイ大砲を積んじゃいるけど、「戦艦」じゃない奴を中心に書いてあります。（一部には戦艦もあります） |
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| No.1839 ノヴィック物語・第1回 |
| 投稿者： 志郎 | 24 Mar 2014 21:44:54 |
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「ノヴィック」物語 水交社記事第11巻第4号付録 ロシア海軍大尉 A. P. スティーヤル 原著 序 大正2年11月 緒言 1907年2月、再びウラジオに赴きて駆逐艦「スコーリー」の指揮を執り、同年10月17日艦員叛を謀るに際し、其の私室に在りて臥寝中、一下士官の銃殺する所となる。「ラスプラタ」の読者は、露国新聞に現れたる、誤謬ならずんば純想像的なる多くの説話を訂正するの主眼を以て、戦後直ちに執筆せられたる此の物語に依り、セメノフ（セミョーノフ）の説述する所、多く其の眞想に（ママ）当れるを了す可し。 ※「ヂギット」Djigit は1877年建造のスループ、1905年に旅順で自沈している。 |
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| No.1838 Ｋは殺し屋のＫ・第8回 |
| 投稿者： 志郎 | 28 Feb 2014 22:55:17 |
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『Ｋ2』は、この作戦の間に、敵に撃沈されたと報告されている。生存者はないとされた。フェア島の灯台守が、Ｋ級潜水艦が機雷を爆発させて沈没したと報告したのだ。海軍省は、当該海域で行動中の『Ｋ2』と連絡が取れないことから、これの忘失を異例の速さで認定し、近親者にその旨の通知を送ってしまった。 二日後、暗闇の中をスカパ・フローに入ってくる正体不明の潜水艦があり、ちょっとしたパニックを引き起こしている。これはもちろん、『Ｋ2』であった。 機雷などどこにもなく、灯台守はただ、『Ｋ2』が潜航する前に4インチ砲を発砲するのを見ただけだったのである。潜水艦がしばしば、灯台を訓練射撃の目標にしていたという事実は、あまりあからさまにはされていなかった。 こうして1918年2月、Ｋ級潜水艦はフォース湾の入り口で大事故を起こし、さらに多数の犠牲者を生んだのである。そうそう、この事故の発端となった『Ｋ22』は、先にガイレ・ロックで沈没し、多くの乗員が犠牲になった『Ｋ13』を引き上げ、再装備して改名した艦だった。 事故より1年も前の1917年1月、一海軍士官がＫ級潜水艦に対して、その行動を妨げないよう、主力艦隊とは別に行動させるべきだと意見を述べている。皮肉にもこの士官は、軽巡洋艦『フィアレス』の艦長だった、リトル中佐だった。 奇妙なことに、戦争の趨勢がもはやＫ級潜水艦を必要としなくなってもなお、その活動は停止していない。さらに多くが建造され、そして失敗を繰り返したのである。 1962年になって調査が行われ、フォース湾のファイフから24キロにあたる海底43メートルのところに、2隻の潜水艦の残骸が発見された。この周辺やメイ島には、この事故についての鎮魂碑などは何もなく、ただロンドンの教会に、『Ｋ4』の乗組員を慰めるモニュメントがあるだけのようだ。 |
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| No.1837 Ｋは殺し屋のＫ・第7回 |
| 投稿者： 志郎 | 26 Feb 2014 22:59:01 |
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この教訓は重要視されるべきだったが、海軍省は状況を軽視し、真剣に取り組もうとはしなかった。問題の根源は例によって予算だった。情報は隠蔽され、事故のはっきりした理由がわからないまま、Ｋ級潜水艦はますます恐れられ、嫌われていくのである。そして実際に、この潜水艦は、さらに多くの海軍士官と乗組員を殺したのだ。 わずかでも実戦経験のある水兵ならば、最前線にある潜水艦が緊急に潜航するとき、命令から全没まで5分などという牧歌的な時間ではなく、宿敵Ｕボートがそうであるように、30秒で終わらせなければ、二度と浮かび上がれない潜航になることを知っていた。そしてまた浮上した時、蒸気を上げるのに要する15ないし20分の時間、ろくに動くこともできずに漂う的になっている艦が、どれほど危険な状態であるかもだ。 1917年1月から5月にかけて完成した初期Ｋ級の13隻は、それぞれ公試を終え、それぞれに問題を抱えていた。 『Ｋ4』は座礁し、『Ｋ14』は外板に漏れを生じて電気火災を起こしている。すべてがＫ級の蒸気推進システムに原因を持つわけではなかったけれども、不具合は少なくなく、それにもかかわらず彼らは準備の出来たものから、グランド・フリートに加わるべくスカパ・フローへ送られた。 1917年6月、5隻のＫ級潜水艦からなる第12潜水艦戦隊は、駆逐艦や通常型潜水艦からなる艦隊に加わって、北海で行われる敵潜水艦掃討作戦（オペレーションＢＢ）の一翼を担うことになった。 Ｋ級潜水艦が、実戦において敵艦へ魚雷を発射したのは、この一度だけであり、戦果はただ、Ｕボートの舷側を凹ませただけだったのだ。 |
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| No.1836 Ｋは殺し屋のＫ・第6回 |
| 投稿者： 志郎 | 24 Feb 2014 22:38:55 |
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以下に、当時の主力だったＥ級潜水艦と要目を比較してみよう。＜＞を挟んで左がＥ級後期型、右がＫ級である。 水上排水量：667ｔ＜＞1980ｔ ・ ・ ・ 1535ｔ 水中排水量：807ｔ＜＞2566ｔ ・ ・ ・ 2300ｔ 全長：55.6ｍ＜＞100.6ｍ ・ ・ ・ 100.58ｍ 幅：7.7ｍ＜＞8.1ｍ ・ ・ ・ 7.98ｍ 吃水：3.8ｍ＜＞5.2ｍ ・ ・ ・ 4.83ｍ 主機・水上／水中はいずれも直流電動機：ディーゼル＜＞蒸気タービン・・・ディーゼル 出力・最大速力（水上）：1600馬力・15ｋｔ＜＞10500馬力・24ｋｔ・・・6000馬力・20ｋｔ 出力・最大速力（水中）：840馬力・9ｋｔ＜＞1440馬力・9.5ｋｔ・・・1800馬力・8ｋｔ 航続力：10ノットで3000浬＜＞13.5ｋｔで3000浬・・・10ｋｔで10000浬 魚雷兵装：45�冏�射管5門・魚雷10本＜＞45�冏�射管10門・魚雷18本・・・53�冏�射管8門・魚雷16本 砲兵装：76�佶�1門＜＞102�佶�2門、76�亶盂冕�1門・・・120�佶�1門 乗員：30名＜＞59名 ・ ・ ・ 63名 ちなみに、・・・でつないだ右端の数字は、10年後の1927年に完成した日本海軍の海大3型のものである。 これらの装備により、この潜水艦の上甲板は賑やかと言うほかなく、とても潜水艦には見えなかった。艦上には多くの穴があり、潜航するときにはそのすべてを確実に閉鎖しなければならない。これはベテランの乗組員にとっても困難な運用であって、安全装置が満足にない当時では、事故の可能性は非常に高かったのである。防水シール一枚の不備が、容易に大惨事へつながるのだから。 まず1916年末に『Ｋ3』が完成し、公試に入っている。 1917年1月に、『Ｋ3』は大艦隊に合流するため、スカパ・フローへと送られている。 不吉な数字とされる13を背負った『Ｋ13』は1917年1月29日に、アイルランドのガイレ・ロックで潜航しようとした。ところがボイラー室に大浸水があり、潜水艦は沈没してしまう。幸いにも水深は15メートルしかなく、沈座した潜水艦は救助を待つことができた。 |
| URL: http://www.d3.dion.ne.jp/~ironclad/index.htm |
| No.1835 Ｋは殺し屋のＫ・第5回 |
| 投稿者： 志郎 | 22 Feb 2014 22:24:43 |
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第一海軍卿は、ド級戦艦と行動を共にできなければならず、それには少なくとも20ノットを維持できなければならないと言い、ダインコートは、それを実現するには蒸気タービンを主機関とせざるを得ず、潜水時に閉鎖できる蓋を持った煙突を用いなければならないと返答した。そしてそれは、そのころの主力だったＥ級潜水艦の三倍という大きさが必要であると考えられた。 チャーチルやフィッシャーにとってのイギリスの潜水艦開発は、ドイツに完全に遅れをとっており、なんとかしなければならない問題になっていた。実際にはこれは、多く運用上の問題であり、ドイツ側が潜水艦という兵器の特性をよりよく理解していたからと言える。しかし、世界最高の海洋民族であり、最大の海軍を擁する国家の頭脳としては、原因を自分たちの硬直した体制に求めることができず、技術的な優越に還元できるはずだと考え、カタログ上の優越を第一義としたのである。 もちろん、部内の全員がフィッシャーのこの要求に同調したわけではない。ドーバーのキーズ提督は、この要求を馬鹿げたものとする意見を持った一人だった。彼は開戦直後のヘリゴランド・バイトにおける海戦で、イギリス潜水艦隊の指揮をしており、そこで得られた教訓は、潜水艦は作戦の邪魔になりこそすれ、艦隊戦闘には何のプラスにもならないということだった。事実、不運も手伝ったとはいえ、彼の潜水艦はなんら戦果を挙げられなかった。 作戦の間、彼は旗艦駆逐艦『ラーチャー』を駆って現場水域に進出していたが、作戦の推移や敵情を伝達しようとしても、潜航中の潜水艦には電波が届かず、常に半分くらいの艦とは連絡がとれていない。定時に通信をしようとしても、敵艦らしき影が近くにあれば、潜水艦は浮上するわけにいかないのだ。 キーズに言わせれば、「潜水艦には水上艦船と協同作戦を行う能力がなく、せいぜい自分の面倒をみるのがやっとなのだ」 この潜水艦は、それまでの常識を覆すほどに大きく、長さは100メートルを超え、排水量は最新型の駆逐艦をも上回る2566トンに達している。武装は魚雷発射管の他に、砲3門を装備する。高さ1.5メートルの煙突が2本、長い潜望鏡と起倒式の無線マストも2本ずつ持っていた。 |
| URL: http://www.d3.dion.ne.jp/~ironclad/index.htm |
| No.1834 KDBさま |
| 投稿者： 志郎 | 22 Feb 2014 22:24:00 |
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＞No.1831 ありゃ、そうでしたか。そいつは失礼。どなただろ。 |
| URL: http://www.d3.dion.ne.jp/~ironclad/index.htm |
| No.1833 そうではないんです |
| 投稿者： KDB | 22 Feb 2014 15:58:28 |
| 志郎様。１８３１は私ではないんです。何方でしょうね。 |
| No.1832 KDBさま |
| 投稿者： 志郎 | 21 Feb 2014 22:19:44 |
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ご紹介ありがとうございます。 No.1831も貴殿ですよね？ |
| URL: http://www.d3.dion.ne.jp/~ironclad/index.htm |
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