駆逐艦哀歌
突然ですが、駆逐艦はお好きでしょうか。
駆逐艦は、はっきり言って脇役です。
戦艦や空母と違って、ひと山いくらの世界です。
数そろえてなんぼの戦力です。
その戦力価値の差は、そのまま知名度にも反映されています。
きっと「戦艦大和」の名は聞いたことがあっても、駆逐艦の名前を知らないかたは多いはずです。
大きさでいけば、駆逐艦は、排水量にしてせいぜい2000t。
戦艦と比べた場合、「大和」で64000tですから、およそ30倍程度、もっと小さい戦艦と比べても20倍以上の差があります。
大砲だって、「大和」46cm砲9門搭載に対し、駆逐艦は標準で12.7cm砲がせいぜい6門。豆鉄砲です。
装甲なんかは、世界一厚い「大和」とブリキとまで言われた駆逐艦とでは、比較すること自体がばかばかしいほど開きがあります。
艦を動かす人の数では、「大和」が約3000人、駆逐艦はせいぜい300人。
いくら軍事に疎いというかたでも、「大和」の写真と駆逐艦の写真を見て、「駆逐艦って強そう!」というかたは、ほとんどいらっしゃらないでしょう。
とどめに、日本海軍では、駆逐艦は艦首に菊の御紋章を頂けない艦、つまり軍艦ではないことになっていました。
なんとなく、駆逐艦というものの哀愁をわかっていただけたでしょうか。
されど駆逐艦
このように、駆逐艦は、安くて小さくて弱い軍艦です。
しかし、他の種類の軍艦に比べて非常に優れた面もあります。
スピードは得意分野です。
「大和」は27ノット(時速約50キロ)しか出ませんが、「陽炎」は実に35ノット(時速約65キロ)のスピードを出せました。
そして、体が小さいから舵もよく効きます。
右に左にすばしこく動き回ることができます。
攻撃力も、砲力では戦艦の大口径砲に遠く及びませんが、その代わり駆逐艦には魚雷があります。
射程距離こそ大砲より短いですが、破壊力では大砲を寄せ付けません。
大和の46cm砲弾の火薬量が約34kgなのに対して、九三式魚雷の炸薬は約500kg。
装甲の分厚い戦艦といえど、3発命中すると戦闘能力を失うほどの威力なのです。
しかも駆逐艦は万能艦です。
対艦戦闘はもちろん、対空戦闘、対潜戦闘、対地戦闘、補給任務に護衛任務、哨戒任務に救助任務。
およそ考えられるどんな局面にも投入することができ、それなりの結果を期待できたのです。
最後に、私が駆逐艦を愛する最も大きな理由を挙げましょう。
それは、費用対効果の高さです。
戦艦の何十分の一の経費で建造でき、運用ができる駆逐艦の働きは、戦艦のそれをはるかに凌駕します。
安くてそれなりに使える。これほど喜ばれる能力はないでしょう!
駆逐艦啓蒙絶対主義
このサイトを開設して間もない頃、プラモデルのウォーターラインシリーズに添付されていた解説書を思い浮かべ、あれのようなものをネット上に公開したらどうだろう、と考えました。
1997年と言えば日本においてはまだインターネット黎明期で、他に見るべきサイトも少なかった頃です。
私のような素人が作ったものでも、皆さんに十分歓迎してもらえるという非常にありがたい時代でもありました。
そんな時代背景と、後先顧みない挑戦という若者の特権でもって駆逐艦の解説コーナーを立ち上げた次第です。
その際、「駆逐艦啓蒙絶対主義」なる語呂合わせの造語を看板に掲げました。
「啓蒙絶対主義」という言葉は歴史用語です。
絶対専制君主が啓蒙思想に染まった場合、その国家の政体を指す呼び方です。
歴史用語としての「啓蒙絶対主義」と「駆逐艦」とは何の関係もないのですが、恐ろしいことに「啓蒙絶対主義」で検索するとかなり上位に表示されてしまうという、世間様には大変申し訳ない状況になっています。
10年経った今になって振り返ると「駆逐艦の解説」とでもしておけば良かったのではないかと赤面の至りですが、10年も掲げ続けた看板を今さら下ろすのも何なので、記念としてこのページのタイトルだけは「駆逐艦啓蒙絶対主義事典」としておきます。
それでは、「駆逐艦啓蒙絶対主義事典」と呼び続けた日本駆逐艦の解説コーナーをご覧下さい。